無駄や退屈を恐れるな!「タイパ」世代に忠告「隙間を埋め尽くすのではなく、隙間を生み出せ」【小西公大】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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無駄や退屈を恐れるな!「タイパ」世代に忠告「隙間を埋め尽くすのではなく、隙間を生み出せ」【小西公大】

「タイパ」を人類学する

撮影:著者

 

◾️タイム・チューニングの世界へ

 

 したがって重要となるのは、時間感覚をその都度の状況に合わせつつ切り替えようとする、「タイム・チューニング」のスキルだろう。直線的な時間が重要なのはわかるが、どこかに曲線的、循環的、可逆的な時間を確保する感覚、すなわち多様な時間を切り替えていくような作法が求められているのではないか。なぜなら、合理性と効率性と即時性を備えたAI技術やDX化が、私たちの社会のあり方を根底から変えてしまったからだ。この分野では、スピード感や正確さにおいても、人間は足元にも及ばない。では、この時間を少しずつAIChat-GPTに受け渡しつつ、私たちは豊かで多様な時間を楽しむようにしようではないか。

 なぜ私たちは、身体と感情と感覚に寄り沿った、多様な時間を取り戻せばならないのか。それは、最も人間らしい自然な流れに身を委ねることで得られる、発想力や想像力、思考力の芽吹きの源泉が、そのような余白的で「無駄」とされてきた時間にあるからだ。よく言われることだが、ギリシア哲学があれほどの深度を持って世界の真理に向けた言語化作業を進められたのは、とにかく時間がふんだんにあったことによる。「労働」は全て奴隷が担っていたからだ。ならば、僕らは「労働」を、最も処理能力の高い最先端テクノロジーに担わせればいい。

 大学の恩師は、「ダラダラする時間がリベラルアーツの条件だ」と言っていた。けだし、名言だ。こうした論理は、私が生きてきた過程でも、実感として感じている。忙しい時ほど、遊び心と発想力を失ってしまう。思考が停止する。ぼーっと時を過ごす湯船の中でこそ、アイデアが生まれたりするのだ。その感覚が私のなかに息づいている。アメリカ西海岸的な企業文化でマインドフルネスが大流行りしているのも、根っこは同じだと思う。

 隙間を埋め尽くすのではなく、隙間を生み出すこと。 

 直線的な時間の傍に、等身大でリアルな時間を確保し、切り替えていくこと。心身の声に耳を傾けながら、自分にしか作り出すことのできない時間の流れを、少しでも取り戻すこと。それが、次世代の私たちの社会にとって、「豊かさ」と活気をもたらす重要な鍵となると感じている。

 

文:小西公大

 

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小西公大

こにし こうだい

文化人類学者

東京学芸大学 人文社会科学系 教育学部 准教授 1975年生まれ、千葉県出身。博士(社会人類学)。東京大学、東京外国語大学での研究職を経て、2015年より現職。現在は社会人類学的な知見を基盤として、音楽・芸能やアート手法を用いた社会的ネットワークの構築や地域開発の可能性に関する研究と実践に勤しんでいる。フィールドも、インドとともに日本の島嶼部に広がっている。主な著作は『人類学者たちのフィールド教育:自己変容に向けた学びのデザイン』『萌える人類学者』『フィールド写真術』(共著)など。

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